2002年 12月 09日
Manabu Chiba
Flat:名古屋に来られたことはありますか?
千葉:何回かあるけど、あんまり街は知らないかもしれない。街の体験は無いかな。
Flat:街の印象はどうですか?
千葉:強い印象は無いかな。実際に街を見てないから印象は殆どわかんないん だけど、食べ物は有名なものが多いし、独特の文化圏を形成していると思うね。
Flat:名古屋と言うと、地域との繋がりと関係なく突如立ち上がる建物が多いのですが、千葉さんが設計されるときに建築と地域との関係性をどのように考えているのでしょうか?
千葉:地域性みたいなものはすごく重要と思っているんだけど、今の時代にそれが建築の様式の問題に置き換えられたりはしないと思うんだよね。なので、その地域が何を継承して何を変えていくかということに関しては、僕はすごく意識的であるべきだと思っているけど、最近僕は東京でしか仕事をしたことが無いので、東京の例で言うと、どう建っているかという建ち方の問題、或いは街の密度の問題とかが街の地形にとって重要だと思っているので、様式の問題とかそういうことではなく、他の地域でも共有できるような指標で見ていければと思っているんだよね。
Flat:実際に設計するときにヴォイドを媒体として地域と関わっていくということを考えていらっしゃるようですが、はじめにヴォリュームを作ってそこから書き取っていくというやり方が多いですよね。その時に、ヴォイドの作り方というのを周りの環境・コンテクストからどのように要素を引っ張ってくるのでしょうか?
千葉:それは本当にケース・バイ・ケースで一概には言えなくてうまく説明できないんだけれども(笑)。例えばヨーロッパの街が持っている法則性や連続感というものが建築によってできているよね。建築のファサード或いは様式が統一されていることによって作られている街並みだと思うんだけれども、東京の場合は空地の連続性が作っている街だと思うので、その空地の連続性を作ることが重要だと思っていて、その場合にある敷地を与えられてその中しか設計はできないんだけれども、そういう敷地境界を越えて作ることのできそうな空地の骨格を作りたいと思っているんだけれども、場所ごとに全然違ってくるので毎回試行錯誤しながらやっています。
で、これはデリケートな話で誤解をされやすいんだけれども、例えば空地を作るということが周りの環境をただパッシブに受け入れるだけだとは思ってはいない。つまり建物ができることによって周りの空地の骨格がよりクリアに見えるということがあるよね。何か自動的に受け入れると言うよりはそれによってより顕在化されるということがあると思うんだけれども、そういうことができるといいなと思っている。だからあらかじめこういう空地の骨格があるべきであろうと思っているのではなく、自分がスタディーしていく時にそこに置く建築を見ながらそれを置くことによって街の質がどういう街が再発見できるのかと考えているんだけれども、それはやっぱりケース・バイ・ケースだし、別にルール化しようとも思っていないんだ。
Flat:街の質という話が出ましたが、その中で、空地の密度をデジタルな0か1か、言い換えれば黒か白かというように考えているのか、それとももう少し曖昧なものとして考えているのですか?完全に黒と白で置きかえられるという話なのか、空地と道路はそれぞれ空地の質が違うと思うんですが、それを別の要素としてとらえているのかという質問なのですが・・・
千葉:実際には個々の空地に着目すればそれぞれの質は、例えばそこに生える草が違うとか仕上げが違うとかで違っているんだと思うけど、僕は現時点ではそれを考慮しないようにしている。それをやっちゃうときりがなくなっちゃうからということと、今自分がやることを明確にしておきたいというのもあって、もうちょっと抽象的にとらえている。だから例えば法律で建蔽率とか容積率とかあって、建蔽率は建物を上から見たときにどのくらいの割合を占めているのかということで、容積率はそれを何倍かした数字で、例えば空隙率という指標を作ってみたらどうだろうか。つまり、「想定されるヴォリュームの中にどれくらい空隙を作ればOKです」というような指標で建築を見てもいいのではないかと思う。だから、そういう意味ではかなり抽象的だよね。
Flat:雑誌などでよく、「ヴォイドを通して視線を通す」という表現をよく目にするのですが、その意図を教えていただけますか?
千葉:そうだなあ。視線を通すと言うよりも街の中に風景を再発見するときと同じなんだけれども、自分の作る建築によってその街の場所の問題を再発見できるかどうかというのはすごく重要だと思っていて、その中で、僕は比較的東京でやる仕事が多かったから、その家を建てることで獲得できる風景ってなんだろうってよく思っている。恐らく、何かを建てることによって、そこの風景を獲得すると言うのは自分の居場所を特定することなんだろうと思う。つまり、たとえば自分の関係・居場所って常に相対的にしか決められないよね。
だから、例えば自分の場所を「座標軸でどこどこにあります」とは決められなくて、もうちょっと相対的な関係性の中で決まるでしょ?そうすると、自分がこの場所で生活しているという感覚と言うのが周りの環境との相対的な関係でしか決められない。その時に風景をどう獲得するかが重要で、例えば隣の家の風景を頼りにしてひたすら作ると、隣の家が変わってしまうかもしれない。で、街の質の中で頼りうるものと頼れないものの選別は自分の中でしていて、その中で東京では有力だと思っているのが空地の連続だと。自分の居場所の特定の仕方が「お隣さんがだれのうちで、お向かいさんは誰のうちで」とかいうことじゃなくって、そういうものを飛び越えた、そこから獲得できる地形の問題だったりとか或いはランドマーク、そういうものの関係性によってだったりとかによって決まる。
そういう時にああいう密集した場所でも自分の居場所が隣のうちとの関係性だけでしか測れないんじゃなく、一時的な関係を飛び越えて形成される関係性によって測られる。
Flat:地理的な考えとは違うのですが、自分の居場所ということでいうと、最近インターネットが普及し、ドメインをとる人が増えてきた。ドメインをとるという行為によってインターネットの中に自分の居場所が作られている、と考えているんですが、建築とリアルじゃない自分の居場所の関係性は、ドメインなどを獲得することによってその形態が変わると思われますか?
千葉:僕はあんまり思ってないんだよね。ていうのは、最終的には建築は実体的なものだから。例えば自分の記憶の中にとか関係性の中に、目に見えないネットワークがあることは今に始まった事じゃないよね。例えば「友達はアメリカにいます」っていうのだってネットワークだしね。
だから、そういう目に見えないレベルでネットワークが形成されること自体は昔からあると思うし、そのこと自体は全然否定するつもりは無いけど、だからこそ僕は、建築で今何ができるかって考えた方がおもしろいと思うんだよね。そういうものによって建築がどう変わるかということではなくて、目に見えないネットワークが張り巡らされている中で建築が唯一できることはなんだろうと考えるほうがおもしろいと思う。だから僕は、実在するものとして何ができるかということをやり続けたいなと思っている。
Flat:flatは名古屋という地域に限定し、名古屋の学生が集まって何かをやろうとしているんですけれども、そういうことに対して、千葉さんはどう思われますか?エールでも結構ですが(笑)
千葉:ああ(笑)。それはすごいいいことだと思っていて、僕は東京をローカルだと思っている。つまり、東京を中心として見ているわけではなくて、僕は東京で生まれて東京で育ってきているから東京のことを一番よく知っているし、東京でしかできないことをやろうとも思っている。それは東京が何か中心だからというわけではなくて、東京を一地域として見ているだけなんだ、僕は。だから、街の質とかに着目しているのもそういうことだからであって、恐らく違う都市に行ったらそれなりに違う着目の仕方があると思っている。今、色々なところでグローバルな社会だと言われているよね?実際仕事をしていると海外から人が来るし一緒に仕事をすることもあるし、色々なネットワークが形成されていて地域と言うものがよく分からなくなってきている。
で、その時にいきなりユニバーサルなことに行くのではなく、その地域でしかできないことを力にしてそれがグローバルになるような戦略を考えた方がいいんじゃないかと思っている。いきなり何かユニバーサルな、インターナショナルなことを考えるよりも、よりドメスティックでよりローカルなことを考え、それがみんなで共有できるものに発展していくというスタンスのほうがおもしろいと思う。そういう意味でも、地域ということを活用して、そこでしかできない活動をするという方がおもしろいと思うけどね。
Flat:グループとしてのflatとは関係ないんですが、世界的に同じ環境が広がって、世界がフラットな環境になっていると思うんですが、たとえばいきなり違う土地で設計を頼まれた時にその地域の特性をどのように読み取っていくのでしょうか?(笑)
千葉:まぁ、わからないけれど(笑)、自分なりの街を見る視点というものは東京に育ててもらったと思っていて、東京の空地などから自分が街を見る視点、それが東京をローカルに見る視点だと思っているんだけれども、そういう視点で他の地域を見るんじゃないかな。
Flat:それは、その土地を東京の視点でみるということですか?
千葉:東京で培ったローカルな視点をよりグローバルに展開していく、つまり、それがどこまで展開可能かということを見ようと思っている。だって、結局地方に行ったって地方の人間になれないよね。例えば僕が「名古屋の土地を知ります」といったところで名古屋の人にはなれないし、名古屋の人に代わってあげることもできない。かといってそういうことを全く無視しようとかそういったことではなくて、外部の視点というのが重要だと僕は思っていて、そういうスタンスで望むんだと思う。
Flat:横浜のフェリーターミナルを設計したfoa(foreign office architects)も同じように外部からの視点を持っている。
千葉:そうだね。よそ者の視点って重要だと思う。よくワークショップで地位のコミュニティを活性化しましょうとか、例えば東京から違う街に行って、その街のためにというのってすごい偽善で、所詮偽者だと思うんだよ。やはりよそ者の視点ってすごい重要だと思っていて、この前偶然千葉のワークショップに僕の研究室が参加したんだけど、殆どの人がやっていたのがそういう地域の人達と一体になって地域のために何かをやって生きましょうといったことをやっていて、これらは胡散臭い。
自分たちは所詮、その街で育ったわけじゃないから、無駄にそこに何日か滞在して、何か獲得できるとは思えない。だから、僕たちは外部の視点を大事にしようと思って結局僕たちは地図作りをやったんだ。その街に僕たちが行ったときに見たいと思うガイド・ブック。だから、その街のガイド・ブックだとか地図をたくさん作ろうと思った。その地図のなかにはいくつかのレイヤーというものがたくさんあって、それを地図に落とし、その地図をプレゼントしましょうと。僕たちは今、いろんな地図を作ろうと思っていて、で、実は研究室では東京の百枚の地図を作ろうとしていて、それは東京の街をどう理解するかというスタディーみたいなもので、例えば地下鉄の路線図は1つの地図だし、道路マップも1つの地図だよね。それらは街の1つの切り口を見せてくれている。それを山のように、100個の視点を作ろうと思っている。それは空地だけの地図、水空間だけの地図、あとは地上50mの地図を作ろうだとか、そういうもので東京を再発見しようとしている。それらを全部集めると東京の地図が見えるという構成にしようという感じで、別に100という数字は別に根拠が無くて、東京100景というだけなんだけどね(笑)。
Flat:ということは、今は空地を基準にして建築を作っていらっしゃいますよね?別の方法にシフトするということはあり得るのでしょうか?
千葉:いや、あるだろうね。そして、もう1つは、風景だけに頼ってはいけないとはもちろん思い始めていて、最近は空間にどういう地形を作れるかなということを思ってやっているね。結局、空地をつなぎとめるように建築を作っているのは空地を居住空間化してみたり美術館にしてみたりだとかそういうことなんだけども、それだけではだめだなと思っていて、それは例えばオフィスビルのように単純にユニバーサルな空間を作りましたと、言われても、人間は何も無いものを与えられると何もできない。何かきっかけが必要で、そのきっかけとなるものを地形と呼んでいいんだけれど、そういうものがないと使いこなしていけないと思う。街を再発見するのと同じように空間を再発見してもらいたい。あまり物事を規定してしまうのでもないし、かといって全く何もしないニュートラルな空間を提供するのでもない、関わり方を考えてもらう空間。では、何を決めて、何を決めないのかということは厄介なことだけどね。
Flat:それは、ある種の不自由さを与えてあげるということですか?
千葉:まあ、不自由な空間を使いこなせたときにあらわれる自由な感じってあるよね。自転車の補助車をはずした時に自転車が焦げたときに獲得する種類の感覚。
Flat:それは、アンチユニバーサルということですか?
千葉:ユニバーサルな空間じゃないものを作りたいと思っていて、例えばただ空地にするわけでなくてそこに新しい地形をつくるようにするといいなあというふうには思っている。それから、これから建物が建ちにくくなるよね。そうすると、今リノベーションとかコンバーションとか建築の再利用がされ始めている。それはそれでこれからどんどん進行し、その一方でやっぱり、新しい建物も作り続けられるだろうと思う。その中で、これから作る建物は、プログラム自体が意味を持たない。建物だってころころ変わるし、プログラムもころころ変わる。そういうことが実際に起こっているので、建築は用途からは組み立てられない。その時に頼れるものは空地の連続性と、もう一つは、空間の地形になるものを作って、それだけでサステイナブルであるということにも答えることができるかなと言うように、僕は思っている。サステイナブルというのは建物の性能や設備などの問題に置き換えられる話ではないかな。ぼくはこれからそういうことをやりたいと思っている。
インタビューを引き受けてくださった千葉学先生ありがとうございました。 (インタビュアー 井原正輝)